家族と器の素敵な関係 〜唐津焼・中野陶痴窯〜

2021.7.16
家族と器の素敵な関係 〜唐津焼・中野陶痴窯〜

桃山時代から遡り、古い歴史を誇る伝統工芸「唐津焼」。その伝統を家族で守りながら活動を続ける唐津・中野陶痴窯の中野政之さんに「家族と器」についてお話を伺いました。どの家庭にもある食卓で、改めて感じてほしいこと。物を大切にすることや愛着を持つことの意味を世代を超えて考えるきっかけに。

唐津で最大の割竹式登り窯

江戸時代、唐津藩御用窯として認められていた由緒ある窯元に生まれた政之さんは、祖父でもある中野陶痴に師事。その後お父様である5代目中野陶痴とともに唐津で作陶しています。

この中野窯は、唐津焼が古唐津の器作りから始まり 茶の湯の隆盛などから美術的な評価を得て献上品作りへと変遷していく時期に作られたという割竹式登り窯(竹を縦に半分に割ったような窯)。

「唐津でも最大で歴史もある窯なので、観光資源としてもいろんな方に見にきて頂きたいです。見学なども受け付けているのですが、このサイズなので、窯のなかに入ってご覧いただくことも可能なんですよ」

この巨大な登り窯を、1300度、1400度に上げていくには、大変な労力と時間と技術をようするため、使用する際にはお手伝いの人などにも来てもらうそう。ほかに小さな薪窯やガス釜などもあり、それぞれ用途に合わせて使用しているそうだ。ガス窯と薪窯の違いはどこにあるのだろうか。

「ガス窯のほうが温度が均一になるので、同じような商品が作りやすく、量産性に優れています。薪窯はどうしても火が当たるところと当たらないところで温度が違ってきたり、薪の灰が降ったりもします。その分、美術品としてや、昔ながらの唐津焼を作るには適してると思います」

そもそも唐津で焼物が発展したのは、やはり土が良かったということがあるのだろうか。

「そうでうね。やっぱり土がよかったからここで焼物が始まったのと、昔、豊臣秀吉が朝鮮出兵で陶工たちを連れて帰ってきてるんですね。それでこっちで作り始めたっていうことがあります」

自然に焼き物が好きになってくれるのが一番。

伝統のある家に生まれた政之さんもまた、小さい頃から焼き物に向き合い、親しみながら過ごしてきたのだろうか。多くの職業選択肢がある現代において、この道を選んだのにはご両親の教育方針もあったようだ。

「わたしの親たちは、あんまり『これをしなさい』という教育はしなくて、自分の気が向けばやればいいよ、という感じだったので、逆にそれで押し付けられずにスッと入れたのかな。実際、やっていくうちにどんどん焼き物が好きになっていったので、自分の子どもたちにもそうやって教えてあげるのが一番いいのかなって思ってます」

4人のお子さんがいらっしゃるという政之さん。実際に子どもたちは「唐津焼」について、そしてお父さんの仕事についてどう感じているのだろうか。

「子供は4人いるのですが、いま一番上が中学二年生で、一番下が5歳です。昨日も作業場に子供を連れてきてましたが、大体途中で邪魔しだすんですよね、お茶碗にポケモンの絵を書いたりして(笑)。いまは、お茶碗のバリエーションを作っているので、4人それぞれに自分の好きなものを選ばせたりしてます。そうするとやっぱり割れたりするのを気にして、食器を大事に扱ってくれるので、そういうのは見てて面白いなって思いますね」

ちなみにご家族は普段から政之さんの作った器を使っているそうだ。

「たとえば、私が新作を持って帰っても、なかなか家族が使ってくれないときは「あ、これダメだったんだな」って薄々感じたり、逆に使ってくれると「これは使いやすかったんだな」って思ったりしてます(笑)」

そうして日々、器と触れ合うなかで、いずれお父さんの仕事を継ぎたいとなれば、その子が7代目ということになる。

「7代目は、男の子が二人いるのでどうなるか(笑)。それに、いまは唐津にも女流の作家さんもいらっしゃいますし。そういう意味では若手で元気がいい産地なのが唐津の特徴かもしれません」

器を大事に扱うところから、他のものも大事に扱う気持ちが生まれる。

いまは安く揃えようと思えば、簡単に器を揃えることもできてしまうなかで、消耗品のように適当に選ぶのではなく、多少高価でも「良いもの」をしっかりと選んで家族で持つことの意味はどんなところにあるのだろう。

「普段の食事がちゃんと美味しそうに見えることも大事なことですし、ひとつお気に入りの器があるっていうのは、料理する人も、食べる人も両方楽しいと思います。そういった意味では、唐津焼も長く使えるものなので、しっかり大切に使ってもらったら一生ものじゃないですけどずっと楽しんで頂けます。
以前、すごく嬉しかったのが、展示会中に「これ修理できませんか?」って、お客様が自分が作った商品を持ってきてくれて、それを見たら、もうボンドとかでくっつけてあって。でも、それだけ使い込んでくれたんだってことが嬉しくて、それを預かってきれいに直したんです。そうやって使い込んでもらった形跡をみるのは作り手としてはとてもありがたいですね」

では実際に器を選ぶときは、どのようなことに気をつければいいのか。もちろん直感も大切にしつつ、それだけではない器選びのポイントとは。


「サイズ感もそうですが、自分の家に持って帰ったときにどう使うかを想像しながら選ぶのがひとつ間違いのない選び方だと思います。あと食器棚のことも考えたほうがよくて、あまりクネクネと曲がってるものだと、重なりがよくないので、食器棚という限られたスペースに置くことを考えると、重なりのいいものを選ぶというのもポイントかもしれません。
ご飯茶碗を選ぶっていう目的があれば、そういう焼き物のイベントにいったり、いろんな窯元を見たりして、そのなかで自分だけのお茶碗を探すのって、買い物としてもすごく楽しくなると思うんですよね。子供たちも自分で使うものだって考えると、しっかり選んだりすると思います」

自分で選んだ自分だけの器だからこそ、大切に扱い、愛着も持つことができる。そして自分と一緒に暮らして、育っていく大切なパートナーともいえるのかもしれない。また、そうやって長く使うことで、これはお父さんの器、これは自分の器、と家族のなかでもコミュニケーションも生まれる。

「器の持ち方は、子どもたちにも言ってしまいますね。ちゃんと両手で扱うとか、簡単に片手で持たないとか。そうやって普段から器を大事に扱うところから、他のものを扱うときも大事に扱う気持ちが生まれればいいな、と思ってます」

「唐津 中野陶痴窯」
佐賀県唐津市町田5丁目9−2
https://www.nakanotouchi.com/

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